テトたちのにっきちょう

テト・ペンタ・ヘキサの3人組によるゆるふわ系ブログ

MENU

全15曲解剖! 米津玄師5thAlbum "STRAY SHEEP" レビュー

スポンサーリンク

 2020年、世界中の人々が、目に見えないものを巡って混沌に苛まれている。

 

 2019年のハイライト曲『馬と鹿』を引っ提げ、2月1日・和歌山から始まった全国ツアー"米津玄師 2020 TOUR / HYPE"。福井、神奈川、広島と廻ったところで、2月27日以降の各公演が延期・中止となり、のちにすべての公演が中止となった。

 HYPE. その名を冠したツアーは未完のまま伝説となってその歩みを終えた。

 

ヘキサが執筆したライブレポ。私テトが書いたアナザーver.はこちら

 

 このツアーのチケットを申し込むとき、埼玉公演と神奈川公演とで悩んだ。最終的に、一緒に行こうと誘おうと思っていた社会人のペンタが参戦しやすいように土日開催であった神奈川公演を申し込んだのだ。

 蓋を開けてみれば、神奈川公演は開催され、埼玉公演は中止となった。滑り込みでその公演を参加し、楽しむことができた自分の幸運さを有り難がるとともに、もしかすると逆だったかもしれないことを思って胸が締め付けられる。

 

 チケットが当たった人の中で、この人が行けて、あの人が行けなくて……そういった歪つな状況は、この件に限らず世界中のそこかしこで起きている。でも、誰が悪いわけではない。誰も悪くない。

 今度米津さんのライブが再び開催されることになったら、私よりも他に、あの時観ることができなかった人たちを優先してください……そう思いながら、心のどこかでは、どこにも遊びに行けない、ライブにも行けない鬱屈した思いを抱えて私も生きていくうちに、また行きたくなってしまうんだろうな……というところが、今世界中を漂う空気が引き起こす人間の苦いところだなと思う。

 

 そんな情勢の中で完成に至った新作『STRAY SHEEP』を、全曲聴いて感想を記していきたいと思います。

 

 

カムパネルラ


米津玄師 MV「カムパネルラ」

 

 アルバム1曲目がこういう曲だとは想像もしなかった。今までのアルバムなら後半のほうに入っていたであろう曲調のこの曲が最初に聴こえてきて、かなり驚き、すごく興奮しました。きっと、初めて『Drive My Car』を聴いた当時のビートルズファンも同じようなことを思っただろうな、というような感覚を覚えながら。

 曲調はかなりUK Dubstepみを感じます。

 

 

 好きなアーティストの新作の1曲目を聴く瞬間はかなり緊張するのですが、今回めちゃくちゃピッタリとハマってテンションが上がりました。

 

 この曲のメッセージの題材となっているのはご存知銀河鉄道の夜。その中でもザネリの目線で書かれたそうです。自分がした選択によってもたらされた様々な影響が誰かを傷つけ、時には死に追いやり、そして同じように自分も傷つけられている。人との繋がりが人類のテーマになっている昨今では特にその存在を感じます。

 

 

Flamingo


米津玄師 MV「Flamingo」

 

 これに関しては、シングル発売時にも書きましたね。

 

tetragon64.hatenablog.jp

 

 日本中を「好き」「嫌い」に巻き込んだ話題曲。アルバムの中に入って、よりコミカルに、それでいてどっしりと聴こえるような気がします。

 

 

感電


米津玄師 MV「感電」

 

 これに至っては現在進行形で話題を呼んでいますね。あえて汚い言葉づかいをすると、"クソカッコいい"

 PV公開されて聴いた瞬間にかなり刺激を受けて、もう何年も曲を完成させられない自分の中に火が点きました。

 

 『Lemon』の後、米津玄師第二章の出発点として世に出された『Flamingo』のコアを継承した一つの到達点というか、そんな感じがします。

 

 ホーンセクションも使ってかなりファンキーですよね。でも、ファンクそのままじゃなくてしっかり落とし込んでいるのも唸ってしまう。

 

 

PLACEBO

 

 この曲が個人的に一番テンションが上がった瞬間かもしれません。

 今まで、「今80年代がアツい! Future Funkがキテる!」と言い続けながら、心の底では「Future Funk、キテるよね……? そうだよね?」と内心自信が持てない部分もあったのですが、米津さんのアルバムの中に出てくるとお墨付きを通り越してもはや世界がひっくり返ったような感覚になりますね。

 

tetragon64.hatenablog.jp

 

 なんだろう、ダサくもありながらちゃんとカッコいいんですよね。たぶん、全く同じ曲を他の人が歌ってもここまでカッコよく聴こえないだろうなと思いつつ、同時に、洗練されているから別のアーティストのネオシティポップ新進気鋭の一曲として出されてもひと旋風起こせるんじゃないかという。恐ろしい。

 

 

パプリカ


米津玄師 MV「パプリカ」Kenshi Yonezu / Paprika

 

 これは、HYPEのライブレポでも書いたけど、日本古来の楽器と今風のサウンドっていう融合がすごく好き。

 日本が大好きで雅楽が大好きだからこそ、こういう曲を作りたいって思う。

 

 

馬と鹿


米津玄師 MV「馬と鹿」Uma to Shika

 

 2019年のハイライト曲。曲順的にアルバム前半の締めくくりといった立ち位置でしょうか。

 

 

優しい人

 

 この曲はすごく綺麗で美しい曲で、聴き終えて「好き」となる曲でしたが、歌詞はかなりストレートに辛いことを言っている。これに関しては、どう結論を出していいかわかりませんね……。

 

 

Lemon


米津玄師 MV「Lemon」

 

 このアルバムをA面とB面に分けるとしたら、この曲はA面の最後なのか、それともB面の最初なのか。意見が分かれると思いますが、私は後者だと考えています。

 未曾有のパンデミックによって世界が混沌の渦に巻き込まれる中で、自分は何をするべきなのか、迷いながら作ったというこの『STRAY SHEEP(迷える羊)』というアルバムですが、その、コロナによる"迷い"の側面は後半の楽曲に集中していると個人的に感じ取りました。対照的に、A面とされる前半は、ポップアーティストとしての街道を突き進む"陽"の面が多く感じました。

 ちょうど中間に置かれたこの『Lemon』は、大ヒット楽曲という点でA面ラストという考え方も勿論ある。しかし、MVの教会の雰囲気も相まって、「迷える羊」の物語の入り口としてこの曲を配置したのではないかと感じました。その物語は、現在進行形で今人類が歩んでいるものです。

 

 

まちがいさがし

 

 菅田将暉に提供した楽曲のセルフカバー。このアルバムでは『パプリカ』も加えて2曲のセルフカバーが入っています。

 オルゴールの音色が聞こえてきて、人形が乗ってぐるぐる回るオルゴールを周りから見ているような気分になりますね。

 

 

ひまわり

 

 前作の『アリス』的な立ち位置のカッコいい曲ですね。今作のスルメ曲になりそう。

 

 

迷える羊

 

 ところどころラーガっぽさが光るいい曲。米津さんの歌もけっこう太く歌っている感じがします。

 

 

Décolleté

 

 ギターとアコーディオンとチェロ?とお決まりのボイスサンプリングと、遊び心が映える曲ですね。

 

 

TEENAGE RIOT


米津玄師 MV「TEENAGE RIOT」

 

 ここで、『Flamingo』とシングルで双璧を成した『TEENAGE RIOT』。シンプルな曲だからこそ、新曲が続いたここで流れてくる安心感がありますね。

 

 

海の幽霊


米津玄師 MV「海の幽霊」Spirits of the Sea

 

 今年の夏が特殊なものになってしまったからこそ、この曲も去年の夏とはどこか違って聴こえますね。

 最後の「また会いましょう」という歌詞においてすべて帰着する気がします。

 

 

カナリヤ

 

 実はこの曲以外に、新型コロナの曲を作っていたそうです。ただ、それは「暗い曲」であり、これではダメだと方向転換し、四苦八苦した結果の曲がこれになったそうです。

 

natalie.mu

 

 初めて聴いたとき、なんて美しい歌なんだと感銘を受けました。現在の瞬間風速の中では、このアルバムの中で一番好きと言える曲です。

 

 今、世界が目まぐるしく変わっていって、それは何も自分の周りだけではなく自分自身、人間自身をも変えていっている。それは「変わってしまう」というとらえ方をどうしてもしてしまうけれど、そうした変化を肯定して、変わっていく自分を受け入れてくれるという包み込みをしてくれる曲だと思っています。

 

tetragon64.hatenablog.jp

 

 私が言っても無責任なだけかもしれませんが、変わることを肯定していかなければならないと思っています。それでも、元通りになることを望んでしまうかもしれないけれど。

 

 

 ということで、米津さんの5thアルバム『STRAY SHEEP』を全曲聴いて感想を記してみました。

 "HYPE"ライブレポの感想戦でも取り上げられていましたが、個人的に『Lemon』と『馬と鹿』が混在するオリジナルアルバムってどうなんだろう……? というのが、発表前の懸念点でした。しかし、そうした不安は米津さんの前には杞憂に終わりました。前作『BOOTLEG』は良くも悪くも一曲一曲が立っていて、シングル曲の詰め合わせのように感じましたが、今作はうまく横並びに馴染んでいて、調子がいいA面オリエンタリズム感が溢れ地球と人類の物語のように感じるB面に二分され、アルバムとして聴いてすごく楽しめました。

 このアルバムを聴きながら、いつかこの曲たちがライブで聴けるときを想像しつつ、変わる日々を過ごしていきたいですね。