2018年11月10日。今日もレコードショップであの妖艶な“島唄”が流れている。
米津玄師 MV「Lemon」
今年の日本の音楽シーンは米津玄師のあの曲から始まった。ドラマとのタイアップということがきっかけで、…いやそれ以上に話題が話題を呼び大ヒットにまで至った。これまで「アイネクライネ」「Flowerwall」「orion」などあらゆる方面とのタイアップで人の心に響くようなポップソングを作ってきた米津玄師は、「あれ、この曲なのか」と少々のあっけなさを感じたようだが、とにかくこれで米津玄師の名は正真正銘、日本全国に広がったということだ。我々の予想だにしない、スピードと道のりをもって。
かくして、米津玄師という作曲家がJ-POPの渦中を歩む物語はその第1章が終わりを迎えた。あれから月日が経ち、Lemonで始まった2018年も11月。彼が次に出す曲はきっとどんなものだろうかと、息を潜めてじっと待ち望んでいた。そんなとき私たちの目の前に現れた彼の姿は、…確かに私たちの"期待"を裏切ってきた。
米津玄師 MV「Flamingo」
米津玄師がメジャーデビューした時から、シングルだけでなくアルバムも聴いてきた人にとっては「あーーーー!」とテンションの上がるような新曲の登場であったが、例えば米津玄師のことを"Lemonの人"だとか、"灰色と青で菅田将暉の隣にいる人"だとかいうイメージでいた人にとってこの曲がどのように視えるのか、推し量ることは容易ではない。もしかしたら、それまでのようなシングルカットを期待していた人にとっては、見限ってしまうかもしれない。
しかし、この曲が売れているという現実が、決して"期待外れ"ではないことを物語っている。米津玄師の第2章の始まりを誰もが注目していたという要因もあるが、ある意味で彼が遊びで作ったようなこの曲が多くの人に受け入れられたという事実は、驚かざるを得ない。
米津玄師 MV「ポッピンアパシー」
私はこの『Flamingo』を聴いて、2ndシングルである『ポッピンアパシー』や、もっと遡って1stアルバム収録の『駄菓子屋商店』に通ずるものを感じ、同時にあの頃を思い出した。あのとき確かに、それらの楽曲がカラオケでかかったときに脳裏に浮かぶのは「米津玄師」ではなく「ハチ」であって、"米津玄師"を"よねづげんし"と呼びながら歌う猛者までいた。あのとき確かに米津玄師は「ハチの延長線の上」であった。
もし「Flamingo」という楽曲が、いまではなくその当時世に出ていたら、どうだっただろうか。確かに当時の米津玄師のイメージと合致しそうな気がするが、世間の反応はどうだっただろうか。そう思いを馳せてみると、これまで、2ndアルバム『YANKEE』、3rd『Bremen』、4th『BOOTLEG』で歩んできた彼の道がいかに『優れたポップアーティスト』として人の目をかき集めてきたかがわかる。
Flamingo
米津玄師 MV「Flamingo」
ベースと、調の外れたボイスサンプルの奇妙な重なりでこの曲は始まる。その時暇だったのでYouTubeで公開されてすぐに聴いたのだけれど、そんなイントロが流れて一瞬で混乱したのをよく覚えている。そういうわけでまんまと米津玄師にのせられて強烈なファーストインプレッションを植え付けられてしまった。そして、そんな混乱を溶かしながら曲は進んでいき、3分15秒という短い時間の中で、後半には聴き入るよりも先に曲にノッてしまっている自分がいた。
聴き終えて、私は真っ先に「あー、これは真似できないわ」と妙に諦めに近い感情を抱いてしまった。別に、米津玄師の音楽を私の音楽活動の目標として考えたことはなかった。しかし、知人の曲を編曲する作業の中で、リファレンスとして米津玄師の楽曲をよく聴いていた。彼の楽曲は確かにこれまでのポップミュージックに裏付けられた聴きやすさがありながら、同時に個性的でもあった。妙に月並みな言葉ではあるが、ポップさ、一種の懐かしさのようなものを感じさせながら今風のサウンドを求めるというのは意外と難しい。まあそんなリファレンスとして米津玄師を聴いていたのだが、この『Flamingo』を聴いたとき、「あーもうこんなの誰にも真似できないよ」というように感じてしまった。"米津玄師"をどうこねくり回しても理解し切れないというか、いや完全に理解し切るなんてできないし思ってもないのだが、とにかく、「米津玄師を作曲家として後追いする」とかそういうのはやろうとしても無駄だな、というのは感じた。
そういうことをしようとしていた、つまり米津玄師を追おうとしていたのかと問われると実際そうでもないのだが、しかし人間ってのは不思議で、できないことを発見すると途端にやってみたくなるものである。この「(追うのは)無理だ」という状況に直面して初めて、私は米津玄師を作曲家として模倣してみたくなった。今まで、リスナーとして聴いてきた、作曲面としては特に刺激を受けなかった楽曲が途端に見方が変わった。そういうわけで、私は米津玄師を追うのをやめるのと同時に、それに抗おうと思いついたのだ。
そして、単純にこんな身軽で、意表を突いたような楽曲を発表し日本の音楽を振り回せるようなアーティストがうまれたことが純粋に楽しい。なんだよフラフラフラフラミンゴって。俺は嫌いだね。2曲目のほうが好きだ。そんな会話が聞こえるようになったのが、面白い。
TEENAGE RIOT
米津玄師 MV「TEENAGE RIOT」
Sonic Youth好きなのか~ってふと思ってしまった時点で、米津玄師の手のひらで転がされてるような気がする。
曲調自体は演じ古された邦ロックの典型なのだが、こんな青臭い一直線なロックがカッコよく聴こえてしまう人自体、なかなか今はいない気がする。サビで一気に開放感がうまれラジオ的な鳴りの映えがすごいのだが、驚くべきはこのサビの原型が中学生の頃既に生まれていたということだ。
中学生の頃作曲した曲を引っ張り出してきて、今の自分と対面してアレンジを加えながら、メジャーシーンで発表するのってどんな気持ちなんだろう。少なくともこの曲を聴いて一番少年ごころになれるのは他でもない作曲者である彼自身でしょうね。いや~、一度は体験してみたい。
かくいう私も、小学校6年生の頃に初めて作曲というものを経験していて、といっても独り遊び的で内向きなものに過ぎなかったのですが、それが出発点となって段々と今の趣味の作曲活動にまで広がってきています。これが共感できる方はたぶんもしかしたら私と同世代ではないかと思うんですが、小学校高学年ぐらいの頃、仲間内で『バンブラ』が劇的に流行りまして、バンブラDXのほうなんですけど。
とにかくもうそれから4年ほど、DSを持ち寄って何かするとしたらバンブラで。自分が知ってる曲で音ゲーができる、当時小学生だった私たちにとってかなり衝撃的なソフトで。当時から仲が良かった友人は呑み込みが速くてすぐにマスターレベルで演奏してたんですけど、自分だけいつまでたってもアマチュアレベルで、まあそのときから音ゲーヘタなのは変わってないな~と思いました。ちなみにマスターレベルの彼と2~3年前に一緒に映画観に行った時、スクフェスのエキスパートで音を聴かずにクリアしてました。もう信じらんない。
語りだすと止まらないのでこのバンブラの思い出だけで1記事、いつか書くとして、このソフトには作曲モードというのがあって。面白そうだな~ってやり始めたのが最初でした。
もしこのソフトと出会っていなければ、私は今頃作曲なんてしてなかったかもしれない。ふとそう考えついてしまって、それ以来この曲を聴くと感傷的になってしまう。
自分が小さい頃に作った曲って、すごく不格好で、クラスメイトに指さされて笑われるようなそんな存在であるようだけど、そんな曲を黒歴史でしまい込みたくなりながら、実は一番、何よりも溺愛してしまうんだよな。そんなことを思って、この曲をいつも聴いています。
ごめんね
この曲は『UNDERTALE』に刺激されて作った曲、らしい。彼も言うようにネタバレ厳禁なゲームなので深くは話さないが、プレイしたことがある私にとってすごく合点がいった。特定のキャラに影響を受けたと話しているが、このゲームの全体的な雰囲気からもすごく繋がるところがあった。
サウンドとしてはすごくライブ鳴りしやすそうなEDM調で、こんな曲調がアンテのような世界観と違和感なく組み合わさるのがすごく不思議だ。
収録された3曲すべて、曲調がまったく違う、まるで同じ人が同時期に書いてるのが信じられないくらいの1枚。お好きな曲をどうぞ、とまるで言われているみたい。うーん、どれも捨てがたい。
内容など
フラミンゴ盤を買いました。
中はふかふか仕様でした。こういうのなんていうの?
ディスクのデザインもカッコいい。
おまけDVDはほんとにおまけ程度でした。
スマホリング。左の台紙もオシャレなんでおまけシールかと思ったら普通に台紙でした。
ハチ時代に『結ンデ開イテ羅刹ト骸』を作った彼が、日本という島国の音楽界で一躍注目される立場に躍り出たこのタイミングで『Flamingo』を世に出した。誤用とされることを恐れずにこう言いたい。これこそ日本の"島唄"だと。
Flamingo / TEENAGE RIOT(フラミンゴ盤 初回限定)(DVD付)
- アーティスト: 米津玄師
- 出版社/メーカー: SMR
- 発売日: 2018/10/31
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