はち切れんばかりのリュックサックをベンチに下ろすと、まるで身体が宙に浮いてしまうようにすら感じた。
時刻は正午。頭上にはこれでもかというほどの青空が広がっていて、眩いほどの日差しが降り注いでいた。
この日、いや、この旅一番の正念場を前にして、最後の休憩を取る。
我に翼を授けてくれ、とでもいうようにエナジードリンクをあおった。
高低差200mの坂。それはまるで壁のようにそびえ立つ。不思議な自信と得体の知れない恐怖が、胸の内で交錯していた……。
- 壮絶な最終決戦
- Blowin' in the Wind
- しんとした町
- 再びの……
- 内浦
- ゾーン突入
- 戦の前
- 地獄の坂
- ご褒美の下り坂
- 晴れた一本道
- 新函館北斗
- 電撃、走る
- やきとり弁当
- ホテルテトラ
- 夜の函館
- 函館山ロープウェイ
- 金森赤レンガ倉庫
- 3日目・振り返り
午前4時。まだ外は暗闇で、テントがはじく雨音だけが響く。
ロングライド3日目。函館への道のりの最終章がその幕を上げようとしていた。
約1時間おきに寝ては起き、寝ては起きの繰り返しでした。風雨の音と、なんといっても寒さが熟睡を妨げていました。雨漏りはしていないのですがテントの床はなんとなく湿っていて、シュラフの中でもその冷たさが貫いてきていました。どこでも眠れることに定評があるさすがの私もずっと眠ることは困難でした。
気温は8℃。昨日の白老では最低でも16℃を超えていたからまるで環境が違う。風雨も相まって、さすがの北海道、無事には帰らせてくれないぞという感じ。
4時半に起きるつもりで、早く起きてしまったその20分ほどの睡眠を悔やむほど睡眠が足りていなかったのですが、シュラフに再び入ってもそう簡単には眠れる気がしなかったので仕方なく起きることに。
Vlog形式で撮ってみました(照)
唐突の動画。実験的に作ってみました。今後ももしかしたら動画を作ってアップしていくかもしれないので、もしご興味があればチャンネル登録、よろしくお願いします。(1回言ってみたかった)
朝食はおにぎり3つ。昨日のようにいちいち朝食も作っている時間がないことはわかっていたので、テントの中でサクッと済ませる。
にしても、雨がやまない。まったく散々なロングライドだ。旅行前日の予定では2日目に半日しか雨は降らない予報のはずだったのに、1日目にも3日目にも侵食して私の旅を妨害するなんて。まったくツイてない。ただ、雨脚は着実に衰えていった。歯を磨きに外に出た5時半、薄明るくなって小雨が降っていた。
それにしても、長万部公園、ここもすごくいいキャンプ場だった。テニスコートも併設されている公園で、管理が行き届いていた。シーズンオフでなければ人気なんだろうな。また来たいですね。
テントに戻り、余裕を持って5足持ってきたにもかかわらず最後となった靴下を履く。テントを撤収し、いざ出陣。
壮絶な最終決戦
昨夜から続いていた風は留まることを知らず、木々を揺らすほどの強さで吹いていた……それに加えて、霧雨程度だった雨も段々と強くなっていった。自転車乗りにとって最悪なコンディションだった。
長万部の町並みを抜け、国道5号に出た。ここから函館までずっとこの道を通っていく。長い長い一本道。
ドライバーの為に用意されただだっ広い駐車場がある食事処も段々と姿を消し、見渡せば見渡すほど怖くなるような草原があたりを覆い尽くすようになっていた。人間の手がつかずただ道だけ引かれた、自生するままにされたそれはまるで海のようで、何の気なしに足を突っ込んだら二度と這い上がってこれないかのようにすら感じた。そんな中やっと見つけた水産工場の前で自転車を止め小休憩する。
風がボー、ボーと鼓膜を鳴らし、雨がしたたり瞳を濡らす。ふと傍らの水たまりをみると、風で水面が波立っている。過酷にも程があるロングライド最終日だった。
散々に思えた昨日よりも環境は悪かった。しかし、今日は昨日よりも幾分か心を強く持っていて、折れずにすんでいた。心は沈みも浮きもせず、ただ淡々と自転車に足をかけた。
Blowin' in the Wind
私の自転車の脇を幾度も大きなトラックが通る。そのたびに風にあおられ、ハンドルをきっちりと持っていないとバランスを崩しそうになる。そんな風雨とトラック通過の板挟み。それでもなんとか逸れることもなく耐えていて、立ちゴケなんてよっぽどのことがない限りないなと感じました。そういえば私の先輩にバイク乗りでよく立ちゴケしてる人いるな、全然立ちゴケしないわ~と思っていました。
しかし、フラグが立つとはまさにこういうことを言うのでしょう、立ちゴケのことを考えてからものの5分と立たず、人生初の立ちゴケ(?)を経験しました。それも、追い抜いていくトラックの風ではなく、反対車線を猛スピードで通り過ぎて行ったスポーツカーの風でコケました。通り過ぎた瞬間に発生した風が、それに乗った雨とともにたたきつけられて、草原へとダイブしました。まさか反対車線からの風にこんなにあおられると思ってなかった油断もあるかもしれません。しかし、幸いにも車線側に膨れ上がることもなく、通行車両もなく、ただひっそりと一人で草原へダイブし、這い上がりました。
これ、人に見られたら絶対恥ずかしい。
誰にも見られなかったのはせめてもの救いだなと思いながら、再びペダルに足をかけました。
自転車乗りにとってありがたかったのは、この国道5号線、路肩が広かったことです。ただ、水たまりができているところも多くあったので、車が往来しているときはそこを通らざるを得ず、なかなかに怖い思いをしました。晴れていたらかなり快適に走れるんだろうなと思いつつ、進んでいきます。
しんとした町
やがて町が見えてきて、私はここでトイレも兼ねて休憩をすることにしました。黒岩駅という駅名が見える。
午前8時、まだ郵便局などは閉まっていて住んでいる人を見かけない。住宅地や広い公園などあるものの、しんとした表情が私を奮い立たせました。
再びの……
せっせとペダルを漕いでいくと、カラーコーンなどがそこらに置いている道にさしかかりました。何かの工事が中断されているということは一目でわかったのですが、まさか路肩と本線とで段差があるとは思いもしませんでした。路肩が一段高くなっていて、それを知らずに本線から路肩側に少し傾けたところで段差にホイールを擦らせてしまいました。自転車で一番やっちゃいけないパターン。あえなく道路の外にダイブ。
再びのコケとなりましたが、道路の外側にコケるという感覚を身につけられたのは良かったかなと思います()
防雪柵を横目にひたすらペダルを漕いでいく。ウインドブレーカーには雨水が染み、風が靡いている。滴ってくる顔を何度も拭う。
そうしているうちに、段々と空が明るくなってきた。雨も小降りになってきた。遠くに見えてきたとある街とともに、希望がうっすらと見えてきた……。
内浦
やがて栄えている街に出ました。八雲町というところらしい。住宅街を見ると安心する。セイコーマート八雲東雲店にて休憩することにしました。
買い物をして店の外に出ると、駐輪していた自分の自転車が倒れているほどの強風でした。しかし同時に、雨がやんでいることに気づきました。天気予報を見るとこれ以降は雨は降らないと考えてよさそう。「雨が降らないのは本当にありがたい……」そう思いながら、午前9時を回ったころ、温かいスナックチキンを頬張りました。
朝6時から出発した今日のロングライド、雨もあってすごく長く感じ、疲れていました。もうちょっとだけここで休憩していたいと思っていましたが、突風に次ぐ突風が私の体に突き刺さり、寒くなって思わず出発しました。
出発してほどなく、ある地名の看板が見えてきました。それが……
う、内浦!?!??
ここが、あの内浦なのか……?
もしかしてこのどこかに浦の星女がk(
もしかしてうちっch(
Saint Snowの聖地巡礼しに来たのに、ここによもやAqoursの聖地があったとは!(違う)
奇しくもこの時ランダム再生で流れていた曲は『未来の僕らは知ってるよ』でした。
選曲神なのでは????
そして聴こえてくるラスサビ前の間奏。
僕は、持っている力の限り、こう叫んだ。
I Live, I Live Long Ride Days!
ペダルを回す足はぐんぐんとスピードを上げていく。空はいつか晴れるから。それと同じく、私の心も晴れていった。
ゾーン突入
八雲の町並みを抜けてほどなく、海がすぐ間近まで見える道になりました。
やっぱり海が見えるのはモチベーションが上がるし、雨が降ってないだけでこんなに晴れやかになるとは!
どんどん進んでいく。厚く覆っていた雲にも晴れ間が見えてくる。
丘を上がったところに待避所があり、そこで写真を撮る頃には太陽が雲の間から顔を出すようになっていました。緩やかな起伏がある道ですが、私はそれをさほど苦にもせずペダルを漕ぎ続けていきました。
この時の私は、紛れもなく"ゾーン"に入っていました。「目的地までたどり着けるだろうか」とか、「巡航速度何km/hで走ってないとダメで……」というさっきまで頭の中をぐるぐる回っていた心配はいつの間にか消え去っていて、ペダルを漕ぐ疲れすら感じずにただひたすら突き進みました。
考えてみれば、北海道に来てからずっと、こんな晴れ間を見たことがなかったのです。旅行を計画していた時に思い描いていた、大自然の緑と大海原の青を嗅ぎ、眺めながらのロングライドが今やっとここで体感できたのです。初日、二日目、そしてついさっきまで連日の雨が視界の色や匂いを霞ませ、私は無意識のうちにどこか諦めてしまっていたのかもしれません。それが、晴れた瞬間に勢いを取り戻し、これまでの鬱憤を晴らすかの如く猛然と突き進んでいきました。
疲れを微塵も感じないままノンストップでペダルを漕ぎ続け、もうすぐ正午になろうかというところ、道の駅「YOU 遊 森」に到着しました。
戦の前
はち切れんばかりのリュックサックをベンチに下ろすと、まるで身体が宙に浮いてしまうようにすら感じた。
時刻は正午。頭上にはこれでもかというほどの青空が広がっていて、眩いほどの日差しが降り注いでいた。
この日、いや、この旅一番の正念場を前にして、最後の休憩を取る。
我に翼を授けてくれ、とでもいうようにエナジードリンクをあおった。
高低差200mの坂。それはまるで壁のようにそびえ立つ。不思議な自信と得体の知れない恐怖が、胸の内で交錯していた……。
このようにして、道の駅「YOU 遊 森」で戦の前の最後の休憩。
これまでは海岸線沿いの、緩やかな上り下りがある程度の道を来ていましたが、これから先に待ち構える坂は、それとは比べものにならないほどのものでした。
その名も「高低差200mの坂」。
競馬ファンなら誰もが知っている、東京競馬場の直線にそびえ立っていると言われるあの坂になぞらえて。
問題の発言は7:05~あたりから。
青嶋達也が実況をする日本ダービーの時だけ直線に登場すると言われる高低差200mの伝説の坂。真ん中に犬が乱入する青嶋達也のダービー。
青嶋さんイジリはそのへんにしとけ。
実際に高低差200mの坂とはどのくらい大変なのか、不安でもありながら不思議と楽しみでもありました。
車なら30分とかからず走り切ってしまうようなこの道。自転車でどのくらいかかってしまうのか。
不安になりながら、でもいつまでもここにいても仕方がないので、腹を決めてリュックサックを背負い、ベンチを後にしました。
地獄の坂
道の駅を出発してしばらくすると、段々となだらかな上り坂に突入してきました。「ほほーん。ついに坂に差し掛かったわけね……」と動揺を抑えながら淡々とペダルを漕ぎました。
ゆったりとしたカーブを何回か曲がった後、長い長い直線になり、ずーっと上り坂が続いていました。ゆっくり、ゆっくりとペダルを漕ぎ、着実にその直線の終わりへと近づいていきました。その直線の後に何があるか見えないうちに「きっとあそこで坂は終わりだ」と都合のいいように考えてしまっていました。長い長い直線を終えたカーブの先にはまだ上り坂が続いていて、卒倒しそうになりながらもペダルから足を外さずに進むも、その先のカーブを曲がってもまだ上り坂が続いていました。
「この坂、終わらない。」
そう悟った瞬間、たまらず下車しました。考えてみれば10kmほどの上り坂がそう簡単に終わるはずはないのに、その辛さは想像を絶するものでした。上り坂だと前後のバランスが崩れて、あらゆる筋力や体力が奪われていきます。それでも自転車を押して歩くのでは日が暮れてしまうので、きつくてもペダルに足をかけます。
心の拠り所であり、気持ちが途切れないようにiPhoneで聴いていた音楽は、シャッフル再生で『うれしい!たのしい!大好き!』を流してきました。
うれしくねーよ!
たのしくねーよ!
大好きじゃねーよ!!!(怒)
なんなんだよもう……iPhoneシャッフル再生で煽ってきやがって……
ふとサイコンを見ると、時速12km/hという文字が。想像以上にのろのろ運転していた。
そんな時、次の曲としてiPhoneが再生してくれたのは『どんなときもずっと』星空凛ver。
うおおおおおおおおお!!!
瞬く間にペダルはそのスピードを上げ、気づくとサイコンは時速18km/hに。μ's最推しの凛ちゃん!!!
推ししか勝たん。(この文字列気持ち悪過ぎて大好き)
しかし2番が始まる頃には元のスピードに戻っていました。悲しいかな。
途中、後方から来たローディーの方に抜かされました。見た感じ自分と比べてかなり軽装で、軽快に上っていっていました。すごいな……。
その後もずっと続いていく上り坂……何も考えられなくなって、いつしか頭にはこんな言葉が浮かんできました。
この上り坂……死ぬな…いや、死ぬね!
そんなことを考えながらひたすら進んでいくうちに、ついにその時がやってきたのだった……。
ご褒美の下り坂
ついに上りの勾配がなくなってきたかと思うと、そこには、長い長い下り坂がありました。やっと、やっとだ……!
その下り坂はめちゃくちゃ気持ちよかったです。そして、下り坂と同じくらい平坦な道も楽に感じた。さっきまでの上り坂に比べれば、平坦な道は下り坂みたいなものでした。
その後2か所ほどまた上り坂がありましたが、さっきまでの長い長い上り坂に比べれば可愛いもの。ラスボスを終えた後の追加要素の敵ぐらいのものでした。
そんな上り坂を終えると、いよいよ最後の下り坂。下るのは時間にしてあっという間ですが、上ってきた重みを感じると、長く長く感じました。これほどまでに上ってきていたのかと……。
深い達成感とともに、長い長い下り坂を下っていきました。
晴れた一本道
下り坂が終わると、山が終わり道が開けてきました。ぽつぽつと住宅も見え始め、片側二車線の幹線道路に。やっと函館の風が感じられるところまでやってきました。
ここまできて私の胸は達成感でいっぱいになりました。この時に流れていた曲が下川みくにさんのこの曲。
分かる人は懐かしい曲。ちなみに『それが、愛でしょう』を歌ってる人と同じだということを数年前初めて知りました。
めちゃくちゃ晴れやかな感じが今の気持ちとマッチしていました。
新函館北斗駅へ向かうために脇道へ逸れると、ほぼ車が通らない、開けている一本道に出ました。
まさに自分が思い描いていた北海道の道のような気がして、やっと見れた……と感慨深くなりました。
太陽が雲に隠れているところと顔を出しているところの境目がくっきりと分かり、雲の流れが自分の立っているところを日向にさせ日陰にさせました。
こんな絶好の撮影スポットを通っていて、ある一つの考えが浮かびテトはニヤリとしました。
車の滅多に通らないこんなに綺麗な道で、やってみようじゃないか……!
おもむろに自転車を降り、スマホを取り出し三脚を用意して撮影したものがこれだ……
いかがだろうか……
子供騙しレベルの映像編集技術を利用して作ってみたが、微妙に詰めが甘いせいかしっくり来なくて自分でもびっくりである。
やはりこういうのは撮影者なりアシスタントが別で必要である。
そして、最後急に車が来て恥ずかしくなって急いで撮影を終了したのである。旅の恥が掻き捨てられていないのである。
悲しいね。
新函館北斗
すぐそこまで迫ってきている新函館北斗駅。
駅のすぐ近くでみかけた仔馬。道産子かな? 可愛いなぁ。
ちなみにこっちは北口で何もありません。
南口までぐるりと回って……
着いた! ここが新函館北斗駅です!
やっと着いた……長かった……!
……とは言え、今日の最終目的地はここではありません。今夜泊まる場所はここよりもさらに南に進んだところにあるホテルです。
ではなぜ、新函館北斗駅に寄る必要があるのか。
昨日、自前のテントで長万部に一泊し、今日は函館市内にあるホテルに一泊。そして明日の夕方に新函館北斗駅から出る新幹線に乗って帰宅という流れの予定。
それならば、今日はその道程にある新函館北斗駅に寄ってテントの荷物をコインロッカーなりに預けて、明日は軽装で函館観光したいと思ったわけです。
ということで、駅に入り、コインロッカーを探す。それ自体はすぐに見つけたのですが、そのロッカーに書かれていたことに驚きを隠せなかった……
24時間限定だった……!!!
いや確かにそもそも長時間の利用は想定外だろうし、時間制限があるのは仕方ない。でも24時間というのは想定していたよりもシビア過ぎてかなり面食らった……
考えてみれば、今までにコインロッカーなんて使ったことがなかった。またひとつ、社会勉強したな……いやいやいや。
どうする?
今、時計は14時を指している。仮に今荷物を預けたとして、明日同時刻には一旦取りに来なければならない。
新函館北斗駅は函館の街中から20kmほど離れた土地にある。そう易々と函館と行き来できそうにない。そして、広いところにただぽつんと駅があるのみで、周辺で時間は潰せそうにない。
明日18時半の新幹線の切符を買っているので、どう転んでも微妙に時間が余ってしまうのは確実。さて、どうしたものか……。
駅の中のベンチに腰を下ろし、ぼんやり考える。ふと顔に手を当てると、妙にザラっとしていた。あぁ、そうか。晴れた日に自転車を漕ぐとこんなに砂埃がつくのか。無表情で感心してしまった。そうして10分ほど座っていてようやく決心がついた。
こうしていても埒が明かないから預けよう。明日の函館観光の時間は短くなってしまうけど、仕方がない。
立ち上がり、ロッカーの中にテントその他もろもろを入れ、カギをかけました。明日のこの時間にはここに戻っていなければならない、そのカウントダウンがスタート。
そもそもテントをリュックで背負って行ったのが間違いだったわけですが、そんなテントがなくなって、まるで翼が生えたように軽い!
その勢いで再び自転車に乗り、ペダルを軽く回して軽快なスピードで、函館への道のりを再開させました。
電撃、走る
ここから、国道227号線に入りました。この道は歩道兼自転車道がめちゃくちゃ広くて、きちんと舗装もされていてすごく走りやすかったです。
ゆったりと走っていると、そのうち函館江差自動車専用道路との交差に差し掛かりました。電光掲示板で「自動車専用道路」という文字列を見た私は(このまま行ったら自転車は通れないんじゃないか……)となぜか思ってしまい、せっかく走りやすかったのに脇道にそれてしまいました。とりあえず海沿いに走れば迷わないだろうと、海沿いの道である国道228号を目指し、狭い道を走っていくと……
「いっ、」
唐突に左足の膝に電撃が走りました。うっ……ついにやっちゃったか……と思いつつ、ペダルを回していくと微かな痛みが確かに左足を小さく蝕んでいました。
信じたくない。
もう函館の家も、店も、海も見えている。もうすぐそこまで来ているから、耐えてくれ……。
あと7km。今日これまでに既に100kmの距離を走ってきたことから考えて、たいしたことない、すぐに走り切れる距離だと、そう思っていた。
しかし、そんな7kmという距離は「すぐ」と形容するには長すぎる距離だということを、その時の私は知らなかった。
やきとり弁当
函館の街に差し掛かってから何回目かの陸橋で、ポカリスエットは空になってしまった。
いつもの私なら、コンビニに駆け込んで飲み物を買った(というよりももうすぐ切れるのを予め見越して買っておく)のですが、この時の私はなぜかずぼらを発揮して、急いで目的地に向かおうとしていました。
15時もとっくに過ぎているのに昼食も摂らないでいるのは、函館名物「やきとり弁当」をめいっぱい食べたかったから。
その関係でハセガワストアに寄ることは既定事項だったので、そこで飲み物を一緒に買おうと思ったのですが、どうせならホテルに一番近いところで買って冷めないうちに持って帰ろう、と思ってしまったのが運のツキ。
そこまでは、喉が渇いても我慢しようと思ってしまったのです。
無事にハセガワストアに着き、伝票を書いて渡して待つという独特の注文方法に戸惑いながらも、なんとかやきとり弁当の大を購入。と同時に購入した飲み物をがぶ飲みし、いよいよ本日の宿泊地へ。
ホテルテトラ
16時を少し過ぎる頃。
今回の新千歳~函館ロングライド旅の終着点であった函館の「ホテルテトラ函館駅前」に到着。
2日目の挫折はあったものの、3日目はなんとか無事に、108kmを走破できたのである!!
風雨という散々なコンディションで始まった今日のロングライド。昨日と同様にくじける可能性も十分にあった。心の中に一筋の糸がなんとか切れずにピンと張っていて、いつしか雨は止み、諦めずにここまで来ることができた。達成感でいっぱいでした。
すぐにチェックインを済ませ、自室へ。
お腹が空いて仕方がないので、着いて即、やきとり弁当を開ける。
オープン!
うわぁ~~うまそう~~!
正解!(何)
焼き鳥の中で一番好きなのネギまなんですよね。なぜかというと魔法先生ネギまが好きだから焼きネギが大好きだから。それ焼き鳥の評価としてどうなのよという意見はさておき。
ちなみにやきとり弁当はラブライブ!サンシャイン!!第2期9話『Awaken the power』2:15頃で善子たちが食べてます。函館聖地巡礼第1号です。
ビジネスホテルの一室で、ひとり静かにやきとり弁当を食べる。美味い!
↑この写真の角度でスマホを固定し食べながら感想を言うところを録画するという"Vlog"的なのをやったのですが、どれだけ食べても「美味い」「うんうん」「めっちゃ美味しい」しか言えませんでした。
普段のテトの無口具合を知っている人からすれば「え? それ平常運転じゃね?」と言われそうですが……。
この時テトには明らかな異変が訪れていました。
頭がぼうっとして考えることができないのです。食べても食べても「美味しい」という言葉しか出てこず、気の利いた何か1つすら言えずにただ目の前のご飯を食べることしかできなかった。
最初は、100km超を走破して一気に緊張の糸が切れたのかなと思っていました。実際、そういった面もあったと思いますが、食べ終わってようやっと考えられる頭になってきたときに答えがわかりました。
どうやらハンガーノックにかかっていたらしいと。
ポカリスエットが切れても根性で走り続けた影響が出たと気づきました。あの時めんどくさいと思わずにきっちりとコンビニに寄って飲み物だけでも買ってくればこんなことにならずに済んだかもしれない。また一つ学びました。
ご飯を食べ終わったところですぐに体調は戻りました。ホテルに泊まることで得られる権利の中で一番大きいのが、お風呂に入り放題なところだと思うのです。まずは一回入浴。
昨日は温泉に入りましたが、一人で心置きなく入れるホテルのユニットバスもまた違った良さがあるんですよね。分かりますかね?
そしてホテルのコインランドリーを使って洗濯・乾燥を行いました。洗濯機が回っている間に近くのコンビニに行って買い物を済ませ、洗濯が終わったらまた風呂に入りました。
夜の函館
風呂から出て、ベッドの上でうとうとしているうちに窓の外は暗くなり、20時になりました。「もうそんな時間!?」とベッドから飛び起き、外出の支度を始めることに。
身体は完全にお休みモードに入っていました。今日は早朝から起きて、ここまで来るのに気力体力を相当使ったので、無理もありません。しかし、函館での夜を過ごせるのは今夜しかないので、渋々腰を上げました。
函館の夜景は世界三大夜景と言われるほどに評価が高く、またラブライブ!サンシャイン!!での聖地巡礼ポイントも夜でのものがあるので、疲れた体に鞭打って行くしかないのです。
函館の夜景が消えるのは22時。それがタイムリミットなので、スピーディに写真を撮ってこないといけない。今一度アニメを観て、どういった構図で撮らなければいけないか確認し、メモしました。
メモしました。(2回目)
なんて描いてあるんだ……(自分が書いたのに)
かなり大雑把に構図を描いたメモを持ち、夜の函館に繰り出しました。
函館山ロープウェイ
財布とスマホだけ持ってロードに乗り、夜の函館を往く。夜風が涼しく心地よい。左ひざはまだ若干痛むものの、軽快にその目的地まで漕いでいきます。
函館は坂が多いですが、目的地の直前にはかなりの勾配の坂がありました。これを乗り越えて左奥にある施設を目指す。
着きました! 函館山ロープウェイ。これに乗って函館山の山頂へ向かいます。
自分が乗ったのは上りの最終便の1時間前のもの。平日ということもあり人はまばら。
函館山から見る函館の夜景はそれはもう絶景であり、アニメでも第2期9話19:10頃に出てきます。
それが、こちら。
いや~、めちゃくちゃ綺麗だった。スマホの画質では伝えきれないくらいの感動がありました。
さすが、世界三大夜景と言われるだけのことはあります。
知り合いにこの写真をLINEで送ったら「ワイン飲みたくなる!」と言われたのは言い得て妙だなと思いました。
こんなん一人で来る場所じゃねぇよ……。こんな夜景を横目に二人でワイン飲みてぇよ……!
聖地巡礼のための写真もひととおり撮り終えた後、下りのロープウェイに直行しました。
滞在時間5分。
消灯時間の22時までに次の夜景スポットに回らないといけないというのもあるが、ツレのいない単独参戦の人間が山頂に到着して写真撮ったらもうやることないのよ!
夜景見ながら話す人なんて今の自分にはいないのよ!
何が楽しくて……何が楽しくて……ウッ……………!
金森赤レンガ倉庫
ロープウェイを降りたら再び自転車に乗って次の目的地へ急ぎます。
途中、すごく広い坂がありました。急ぎすぎて名前すら見ていないのですが、もしかしたらここが『Awaken the power』の坂かもしれません。
Saint Aqours Snow『ラブライブ!サンシャイン!! 』TVアニメ2期 第9話 挿入歌「Awaken the power」60秒CM
なおもペダルを漕ぎ続け、着きました。
金森赤レンガ倉庫です。
赤レンガの建物もさることながら、道もレンガで敷き詰められているのがとても粋。
恐らく、アニメ第2期8話『HAKODATE』19:50頃からルビィちゃんと理亞さんが歩いていた歩道。いつ見ても泣ける感動シーンの舞台とあってかなり感慨深いです。
その他にも様々な場所がライトアップされていました。これら一つ一つがあの夜景を作り出しているんですね。
ただ、個人的に残念だったのが、
一部めちゃくちゃ工事中でした。
そして22時ぴったりにホテルに帰宅。
先ほどコンビニでたんまり買ったお酒とおつまみを片手に、ベッドに寝っ転がりながらまた8話9話を観たりして、24時に就寝しました。
3日目・振り返り
風雨で始まり、どうなることか、微塵もわからないまま走り続け、いつしか太陽が顔を出し、なんとか無事に106kmを走破することができました。
走破してみて感じる、北海道の大きさと、今日走ったその道のりの長さ。
その日は自分でも信じられませんでした。
そして、106kmという長さは直線距離でいうと東京~甲府間とほぼ同じ。そして、これまで3日間のロングライドの距離総計は200kmを超えていて、これは東京~浜松間に相当。
改めて、すごい距離を走ってきたんだなと気づかされます。
ロングライド熟練者にとっては大したことない距離かもしれませんが、ロングライド初挑戦、そして背中に10kgを超える荷物を背負ってのこれは、上出来といってもいいのではないでしょうか。
そして、夜からは函館観光編がスタート。夜に走っているだけでも、その街並みがいかに素敵で、綺麗に整っているかが実感できました。
明日は函館観光後編、そしてこの旅最終日。どんな景色が見られるんでしょうか……。
続く。
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