「今日はクローズです」
受付の窓を叩いた私を待っていたのはそんな一言だった。
「……え、……そんな…………」
私はその言葉の意味を理解できなかった。クローズ? 入れてもらえない? なぜ? ここに泊まるために白老まで50kmを超える道のりを走ってきたのに。この付近に他のキャンプ場や個室の宿泊施設は――ない。
「今朝の、あんな雨だったから……お客さんも来ないんで今日は閉めてます」
空にはまだ厚い雲が覆っていた。今夜、また雨が降るだろう。私はただ、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった……。
出発の時
AM4:00 起床。
最寄り駅にて始発で行かないと間に合わない。まだ窓の外は真っ暗。母が用意してくれた軽めの朝ご飯を食べ、パンパンに詰めたバックパックを背負った。まだ窓の外は、真っ暗だ。
輪行袋にくるまれたロードを抱え、暗闇の中煌々と照らされたホームを歩いていく。AM5:00、そろそろ電車が来る頃。いよいよ出発です。
電車に乗ってイヤホンを耳にかけ、シャッフル再生をするとこんな曲がかかってきた。ピッタリな曲じゃないか。
重すぎるバックパックと、大きすぎる輪行袋を携え、AM6:20、成田空港第2ビル駅へ到着。LCCなので第3ターミナルまで移動しなければなりません。バスでの移動も考えましたが、自分の足が一番信用できるので、ちょっと遠いですが歩くことに。
そしてAM6:30、成田空港第3ターミナルに到着。
今回使うのは春秋航空。群を抜いて安かったんだけど大丈夫だろうか。
無事搭乗手続き完了。
……のはずだったんだけど、自転車は別料金で取られました。預け荷物の欄をちゃんと読んで重量に合わせてチケットを取ったんだけど、例外が別のページに書いてあったのかもしれない。まぁ、LCCだから自転車が別料金じゃないわけないか。これでも他のLCCとトントンぐらいだしね。
さて、時間的に休んでる暇もなく飛行機に乗り込みます!
ほんの少しだけ、さよなら故郷!
窓際の席だと意味もなく写真撮っちゃうよね。
北海道にロングライド侍爆誕
国内線だと飛行機はあっという間。AM9:00にはもう新千歳空港に到着しました。預けていたロードと合流し、まずは腹ごしらえすることに。
今回は札幌に訪れる予定はないので、ここで札幌味噌ラーメンを食べておこうと思い、新千歳空港内にあるラーメン道場に向かいます。
朝9時に開店しているラーメン屋の中から、「札幌ラーメン雪あかり」のほぐし味噌ラーメンをチョイス。
ピリ辛で美味でした。
そして、空港内でOD缶を売っているお店、スノーショップ出発売店に向かいます。お店の遠目からガス缶がどこに並んでるかキョロキョロ見渡します(完全に不審者)。輪行袋を抱えていて店内にいると邪魔になるので。ですが見当たらず、店員さんに聞くと店の裏から持ってきてくれました。そういうことか。
無事ガス缶を購入し、時刻はAM10:30。新千歳空港にはサイクルステーションなる場所があるようなので、そこへ向かいます。ここで自転車をセッティングし、メンテします。
輪行袋から取り出し……
車輪をはめ込み……
空気を入れ……チェーンオイルをさして……
準備完了! さぁ、いざ尋常に、出発!!
しゅっぱつ…………
…………
……なんで雨降るねーーーーーーーーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!
予報外れの大雨
雨が降るなんて聞いてない! 天気予報では確か今日は晴れだった。なのになんでこんな仕打ちを……
通り雨だと高を括って上のみレインウェアを羽織っていったら、ついに土砂降りになって降りかかってきた。ズボンはびしょびしょ。とりあえず十数分で到着予定のノーザンホースパークまで我慢して行こう……と思ったけれど……
「……こんな大雨でノーザンホースパーク行ってもしょうがなくない……?」
なぜか雨はやむ気配すらない。昔ノーザンホースパークに行った思い出は晴れの日で、牧場だから当然屋根のない開放感の中で馬と戯れるのが楽しかった。こんな雨の中で行ったとして、どれだけ楽しむことができるのだろうか。というか、お馬さんと会えるのだろうか……
雨がしのげるトンネルの中で15分ほど考えた結果、ノーザンホースパークはパスしてキャンプ場に直接向かうことにしました。雨だと移動にどれだけ時間がかかるかわからないしね。
ウインドインハーヘアに挨拶できないのは悲しいけど、こんな雨じゃしょうがない。
目的地変更
ということで、雨の中新千歳空港から出発し、南下を始めた私。相変わらずの雨。そして、ノーザンホースパークに寄ってから着替える予定だった普段着+レインウェアのまま漕いでいる。どこかで着替えなくちゃいけないんだけど、ここらへんは新千歳空港ぐらいしか施設がないので着替えられるような場所がない。空港に着いた時点で着替えておけばよかったと後悔しつつ、雨に打たれながら自転車を漕ぎます。
国道36号をひたすら南下。交通量はさほど多くなく、ただ森林の中にだだっ広い道が敷かれている。晴れてたら気持ちいいんだろうなぁと思いつつ、散々な幕開けですがひたすらペダルを漕ぐ。
しばらくすると雨も止んでレインウェアも必要なくなったので、キャストオフしつつ漕いでいくと、トイレが併設されている公園がわき道を入ってすぐのところにあったのでそこで普段着から運動着に着替えることに。
ここまで10km少々。雨はやみ服装も軽くなり、まさに身も心も軽くなった状態でキャンプ場へのサイクリングを再開します。
ここで音楽を聴くことに。頭を空っぽにして走りたかったのでパンクをチョイス。
苫小牧を通過
さすがに上り坂は堪えますが、1日目の体力満タンながらの不敵さで難なく走っていきます。このアルバムを聴き終えてほどなくすると苫小牧に到着。
北海道名物のセイコマで初のコンビニ休憩。温かい唐揚げとかいろいろなモノが揃っててほんとにお世話になります。
まぁ今回買ったのアクエリだけなんですけど。
ここがだいたい中間地点。ここからしばらくは苫小牧の市街地が続き、そこから先の自然を抜けたら今回のキャンプ地、白老に着きます。
さぁ、頑張るぞい!
しばらく走っていると太平洋が見えました。今回の旅はほぼ海沿いを走っていくので、やっと旅の始まりを実感したような気が。
音楽をシャッフル再生にしていると、こんな曲が聞こえてきた。
時々雨が降るけど水がなくちゃたいへん
乾いちゃだめだよ みんなの夢の木よ育て
雨に降られて散々だった自分へ励ましているような気がしてすごく元気が出た……そんな一曲でした。
音楽にも元気をもらってぐんぐん進んでいくと、競馬好きにはおなじみのあの牧場が。
オルフェやステゴなどの生まれ故郷である白老ファームがありました。国道沿いすぐにあるんですね。
雨上がり、お馬さんがのんびりされてました。後日調べたところ、現在はリトルアマポーラや、ベルーフの母レクレドールなどが繋養されているようですね。外から写真を撮っただけですが訪れられてよかった。
白老へ
その後しばらく走るとだんだんと歩道に人が見えてきて、白老の町が近づいているように感じました。特にとある高校の前を通ると、ちょうど下校時間なのか高校生がたくさん歩いていました。友人とだべりながら歩いている彼らがとても日常的で、その光景が今の非日常な私(目に映るものすべてが初めて、平日の昼下がりに見知らぬ地でロードバイクとバックパックと自分の身だけでいる孤独感)との対比が痛烈に感じられてすごく心が動かされました。同じ日本であるのに生まれ育った故郷が全く違う所のように錯覚して、すごく感傷的でした。
景色が自然からどんどん街並みに変わってきて、キャンプ場への近づきを感じた頃。ラストスパート。
そんな時にこんな曲がかかってきたので、ギアをもう一段上げました。
海沿いの市街地から北へそれ、ポロト湖をわき目に見ながら森林の間の道を進む。アップダウンが激しく、気力を振り絞ってのぼる。最後の、もうひと踏ん張り……!
そしてなんとか、今回のキャンプ予定地「白老ポロトの森キャンプ場」へ到着。
到達と、そして拒絶
「今日はクローズです」
受付の窓を叩いた私を待っていたのはそんな一言だった。
「……え、……そんな…………」
私はその言葉の意味を理解できなかった。クローズ? 入れてもらえない? なぜ? ここに泊まるために白老まで50kmを超える道のりを走ってきたのに。この付近に他のキャンプ場や個室の宿泊施設は――ない。
「今朝の、あんな雨だったから……お客さんも来ないんで今日は閉めてます」
空にはまだ厚い雲が覆っていた。今夜、また雨が降るだろう。私はただ、その場に呆然と立ち尽くすことしかできなかった……。
ふと振り返ると駐車場には私のロードと、もう1人、バイクを置いてスマホを眺めている者がいた。私と同じくクローズを宣告された者だろうか。私も今夜泊まれる場所を探さなくてはとスマホを開く。チェックインの時間的にホテル以外の選択肢はないが、それがある苫小牧まで20kmも戻らなくてはならない。自転車では堪える距離だ。しかし、それしか方法は……。
「お兄さん、自転車で来たの?」
野宿も辞さないという覚悟を決めかけた時、先ほどの受付の人が一度閉め切った窓口を再び開けて言った。はい、と私が返す。
「いいよ、じゃあ、開けてあげる」
と予想だにしない声が返ってきた。と、いうことは、ここに泊まれる……?
「自転車で来たんじゃこれから泊まるとこ探すの大変でしょ。そこのバイクの人も! 開けてあげるよ!」
窓口から身を乗り出して呼ぶその大声を聞いてようやく私は、ここで一夜を明かすことができるという実感がわいた……。
本当の到着
というそんなこんながありまして、結果的に無事、予定していたキャンプ場「白老ポロトの森キャンプ場」で泊まることができました。一時は血の気が引くほど焦りましたが、そんな私を見かねて開けてくれた管理人さんには本当に感謝しています。
ここから得た教訓としては、シーズンオフや天候など人がいない状況が予想される時は行く前に確認の電話を一本入れましょう、ということです。考えてみれば宿泊費たった数百円のためにキャンプサイトを開けてくれるのは相当のご厚意ですし、宿泊者がいるかいないかというのを想定しやすくするためにも必要ですね。ゆるキャン△第1話みたいに「貸し切り状態……シーズンオフ最高」となるのは相当の条件が必要ということですね。これぞゆるキャン△の理想と現実。
私とバイクで来たライダーさん2人に向けてキャンプ場を案内していただき、キャンプ地へ続く道を開けていただきました。途中、道端の先30m向こうで鹿が逃げていくのが一瞬見えて、北海道の自然を感じました。まさか鹿とお目見えするとは……
そしてとうとうキャンプ地に着き、荷下ろしを始めることに。結局この日ここに泊まったのは私とそのライダーさんだけでした。話してみると私より1,2コ年上の、どうやら地元の人らしく、自転車でもロングライドキャンプをしたことがあるようでした。普段は仲間内でキャンプをしているらしく、ソロでこうしてキャンプに来るのは今日が初めてだと語っていました。
早速テントを設営し、食料の調達をしに市街地のコンビニへ戻ります。コンビニは白老の一番賑やかな通りに面していて、その通りでは何やら女性の歌謡曲が流れていました。その歌がハッキリとは聴こえないまでもなんだかすごく田舎臭くて、思わず「のどかだなぁ」などと思ってしまったのですが、コンビニで買い物を終えて出ると今度はKing & Princeの『Memorial』が流れていて「ごめんなさい」となりました。たぶん有線放送とかでたまたまそういう曲が流れてただけだと思う。
食料や水はもちろん、酒やおつまみの調達も欠かせません。きちんと買って野営地へ戻ります。あたりは既に真っ暗。まだ18時を回ったばかりですが、アウトドアで生活していると「夜」という現実が突きつけられているような気がして、もう寝る支度をしなきゃというような感覚になる。学生にとっての18時って「1日はまだまだこれから」的な雰囲気だけど、全然違ってすごく衝撃的だった。
レッツ・ソロキャン・クッキングタイム!
ロードで走ってきた証のヘルメットにガッツリオヤジ臭い酒とおつまみ……もう健康的なのか不健康なのかわからん。でも頑張ったからいいよね。
テントの中で一通りビールをあおったら、外へ出て食事の準備をはじめます。
バーナーに火をつける瞬間が一番ソロキャンしてる実感ある。
コッヘルに水を注ぎ、お湯を沸かします。
今回チョイスしたのは一風堂の豆腐スープ。普段あまり麺なしのコンビニスープ買わないからここぞとばかりに。
そこに先ほどのスモークタンを2枚ほど入れます。
その上からスライスチーズを2枚。
入れすぎたかな? まあいいや。
お湯が沸いた! 入れます。(カメラアングル下手か)
30秒ほど待ちます。そして完成!
タンにチーズが絡み合ってこれは……美味そう……
感想はいかに……
サムズアップ!
美味い! 疲労困憊の頭で考えた即席豆腐&タンスープだけどめっちゃ美味い! 誰に何と言われようとこれは料理、ソロキャン料理なのだ!
これは酒が進みますわ。
豆腐&タンスープを飲み終えた後は、梅のおかゆを買っていたのでそれを空き容器に溶かして余ったチーズを入れて食べました。コッヘルを頑なに使わないのはただ洗い物を増やしたくないだけです。
これもサムズアップ。Big up, ソロキャン飯! Big up, ビール! Big up, 北海道!!!
ソロキャン飯を満喫したところでテントにいそいそと戻り、寝袋にくるまって明日からのことを考えながら眠りにつきました。ここは北海道のとある森の中。生きて帰らなければ……。
北の地にて思慮に耽る
北海道ロングライドは初日から本当にいろんなことがありました。予定の変更もあり目まぐるしかったですが、まずは無事に予定キャンプ地まで走破でき安心の気持ちが強かったです。眠る前まで思慮に耽っていたことは、「生きる」ということの客観的な見方です。普段そうしているようにSNSを開くと様々な人がいつも通りに呟いていて、それらの人々と今の私はどこか違うような錯覚にさらされました。まるで渋谷の交差点のど真ん中でテントを立てて中にいるような気さえ、Twitterを見ていると感じました。私と彼らは同じ「生きる」行為をしているけれども……。
毎日のように誰かが配信をして、そこに1万と視聴者が見に行く。配信者がお疲れさまでしたと呟くと秒でリプライが飛んでいく。その様を、人里離れた森の中で寝袋にくるまりながら眺める自分……私が好きな配信の話ですみませんが、私もよく配信でコメントを残したりするもので。今まで当たり前と思っていたどこかの誰かとの情報のリアルタイム性もインターネットの発達によって享受できるもので、しかも自分の日常の中の時間をあぶり出してそこに費やしている。今の私はそんなことする暇すらないけれども、と考えたところで、私たちが生きる時間の流れって人によって様々だなと、今更ながらに気づきました。
それから……確か一人旅は人生で二度目だな、というのも思い出していました。一度目は高校1年生のとき。青春18きっぷでなんとなく行きたくて距離的にも丁度良かった名古屋まで揺られながら、ポケモンセンターナゴヤでもウィンドウショッピングしただけで何も買わず、浜松の餃子が食べたくて浜松駅で降りてみたものの1人で店に入る勇気がなくてそのまま電車に戻り、ついぞ何をすることもなくただシーズンオフの観光地を写真を撮って帰ってきただけという、今もネタとして語り継がれている一人旅。あの頃はバイトもせずお金もないまま旅に出たけど、一人旅を決心する心持ちだけは今もあの頃もあまり変わっていないんじゃないかと。あれから7年、お金もできることも勇気も増えたけど、バイタリティは変わったのかな。もっと野心を持って生きてたいな、と感じました。
1日目・振り返り
北海道ロングライド1日目、この日走った距離はこれくらい。雨に降られたけどなんとか走り切りました。
さて、明日はどんな日になるでしょうか……。
続く!
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